どんなに世界が闇に染まろうと、朝は必ずやってくる。 「お早うございます。よく眠れましたか?」 「あ、ああ・・・・・」 「お早うございます、イオスさん」 「っ!?」 昨夜、醜態としか言いようがない姿を晒しだした彼らの上にも等しく、朝日が降り注いだ。 |
新しいガーゼと取り替え、前日と同じくはイオスに横抱きにされてルヴァイドのテントに連れて来られた。 「・・・姉様・・・」 「お願いだから、何も言わないで、お嬢」 微妙に哀れみの篭った親友の視線にがっくりと肩を落とす。 本当に、出来ればこんな運ばれ方はしたくないのである。 (可愛いお年頃なら「キャッ」で済むだろうけど、彼よりかなり年上だとねぇ) 今の自分の外見が外見であるだけに、詐欺を働いている気分になる。・・・というか、もうすでに詐欺と言われてもしかたがない。 別に隠しているつもりはないのだ。ただ、言うタイミングがないだけで。 『実は私達、外見よりずっと歳をとっているんです』 脈絡も何もなく言ったところで相手側が白けるのは目に見えている。 何事もタイミングが必要。 とりあえずはそう結論を下し、渡された朝食のスープに手をつけた。・・・多少の罪悪感を感じてはいるが。 そんなの思考をも理解しているのだろう。特に口を出すわけでもなく自分に手渡された朝食に手を伸ばしながら、ふと首を傾げる。何度か親友と青年の姿を見比べ。 「姉様。彼と何かあった?」 いきなり核心をついてきた。流石は、野生並みのカンの持ち主である。 そんなことを呑気に感心していただったが、曰く『彼』の方はそうもいかず。手にしていた書類をバサバサと辺りに撒き散らし、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。ゲーム序盤の冷静で無表情な彼からは想像もつかない動揺の仕方だ。 「な、な、な、な」 「少し落ち着け、イオス」 軍人としては少々−−−いや、かなり情けない部下の姿にルヴァイドがため息をついた。 「そういうお嬢も昨夜、何かしたでしょ、総指揮官殿に」 「!?」 二人の間に流れる穏やかな『気』の流れで推測したのだが、今度は曰く『総指揮官殿』の反応が凄かった。剣の手入れをしていたのだが、動揺のあまり手を滑らせ、自分の足に剣を突き刺しそうになったのである。 「・・・・・貴方も、人の事は言えないのでは?」 「・・・・・・・・・・」 呆れた視線を向けるの視線にルヴァイドは何も言えず、額に一筋の汗を流して黙り込んだ。 奇妙な沈黙がテント内に満ちる。 何とも形容しがたい表情の彼らにとの二人は視線を交わし、苦笑を零した。微妙に居心地の悪そうな彼らに助け舟を出す。 「ところで、昨日見た機械兵士の彼・・・えっと、ゼルフィルドさんでしたっけ?姿が見えませんけどどうしました?」 明らかに助け舟だと分かっていたが、それでもその気遣いに感謝し、ルヴァイドは二人の疑問に答えた。 「ゼルフィルドなら充電する為、今日一日は休みになっている」 「充電?」 「ロレイラルの機械兵士は日の光を浴びる事で体を動かすエネルギーを得る」 「なるほど。だから、今日は休みというわけですね」 端的なルヴァイドの説明には納得したというように頷く。 「残念。ゼルフィルドさんと話したかったんですけど」 「何故だ?」 彼女達がゼルフィルドに拘る理由が分からず、疑問を口にすると意外というか、納得というか、そんな答えが返ってきた。 「この世界の事とか近辺の国の事とか、そんな事を教えて貰おうかな、と思っていたんです」 「この世界に来てそれほど時間が経っていませんから、出来るだけこの世界の事を知りたいのです」 意外ではあるが、理由が分かれば納得する。だが。 「別にわざわざゼルフィルドに限定しなくてもいいだろう。僕だってそれぐらい、君に教えられる」 むすっとするイオスにルヴァイドも何故か不機嫌そうな口調で。 「軍事資料などはさすがに見せる事は出来ないが、近隣の国の事などのものなら見せてもかまわない」 言い切る口調の強さにの瞳が僅かに見開いた。 「別に貴方達が説明できないと思っているわけじゃありませんよ。単に機械兵士の彼なら色々と記録をしていそうだと思っただけで」 「で、どうしてそんなに不機嫌になるのですか?」 ズバリと聞いてくるに男二人は再び居心地悪そうに視線を背ける。 「イオスさんもルヴァイドさんも、さっきの言い方って私達二人にというよりもそれぞれの個人に向かって言っていましたよね?」 「・・・・・」 更に追求するだったが頑なに閉じた口は開く気配を見せず。 「ルヴァイド様、隊長!本国から資料が届きました!」 「分かった。会議用テントに運んでおいてくれ」 「承知しました」 「イオス、行くぞ」 「はい」 部下の報告をいいことにそそくさとテントから去って行ったのだった。 「・・・ルヴァイド様。本当にと何かあったのですか?」 会議用のテントに入り、先程派手にぶち撒けた書類の決裁をしながらふと、イオスは上司へと問いかけた。 先程の上司らしかぬ醜態を見れば一目瞭然なのだが、それでも訊ねるイオスにルヴァイドは視線を在らぬ方向へ向ける。そんな上司の姿を見たイオスの脳裏に『まさか』という疑問が湧き起こった。 「まさか、彼女に・・・」 「いや、違う」 お互いに何を思ったのかはっきりとはしないが、何かを言いかけたイオスの言葉を遮るようにルヴァイドは否定の言葉を口にする。 一体何を連想したのか、二人に本気で突っ込みたいところだ。 「ただ・・・」 「ただ?」 「・・・・・あの歌をもう一度歌ってもらっただけだ」 それだけにしてはあの動揺の仕方の説明がつかないが、イオスは特に何を言うでもなく小さく頷くだけに留めた。 「そういうお前もと何かあったのだろう?」 そうでなければ、先程のあの異常なまでの動揺の仕方に説明がつかない。どこか、面白がるような上司の問いかけにイオスは勤めて無表情に答えた。 「ルヴァイド様と同じです。あの歌を歌ってもらいました」 「ほう」 ルヴァイドもこの答えだけだとは思っていないが、自分の事を突っ込まれると答えられない為、お互い様だとこれ以上の質問を控える。 ふと、執務していた手を休め、ポツリとルヴァイドは呟いた。 「あの歌もそうだが、あの娘達も不思議なほど安らぎを覚える雰囲気を持っている」 この言葉にはイオスも同意の頷きを返す。 敵陣の真っ只中にいるにも関わらず、怯む事のない真っ直ぐな瞳。 覚悟を決めていたのではないのかと問い質した厳しくも暖かな声。 年齢にそぐわないと感じるほどの心の強さと潔さ。 理解しているのだと告げた時の優しい微笑み。 癒されるべきなのだと触れた華奢な手。 泣いてもいいのだと抱き締めた柔らかな胸。 そして、不思議な響きと安らぎを覚える歌声。 そんな彼女達の存在を得がたく思ってしまうほど、強く惹かれている事を二人は僅かながらも認めていた。 接した時間は短いというのに、人質として捕らえたはずなのに、何故こうも惹かれるのか。 心の強さに惹かれたのか。 優しい微笑みに惹かれたのか。 それとも潔い精神に惹かれたのか。 ・・・いや、強さも優しさも潔さも。それら全てが彼女達を構成する一つであり、彼女達を彼女達たらしめるものであるからこそ、惹かれるのだろう。全てをひっくるめて彼女達であるからこそ、あれほどまでに輝いて見えるのだ。 二人が捕らえた人物へと想いを馳せていたその時。 急に外が騒がしくなり、慌しく一人の兵が会議用のテントへと飛び込んできた。 「申し上げます!」 「何事だ」 瞬時に冷静な総指揮官の表情に戻ったルヴァイドが冷静に兵へと問い質す。 「捕らえた人質達が、脱走しました!」 「何だと!?」 思いもかけない報告に、彼らの瞳は大きく見開かれたのだった。 時を少し戻したルヴァイドのテントの中では。 「お嬢」 「ええ」 準備万端、いつでも脱走できます状態の二人の姿があった。 「姉様、肩の具合は?」 「大丈夫。薬が効いているから」 30分ほど前に服用した薬の効き目を示すように、怪我を負った肩をぐるりと回してみせる。 「・・・偶然とはいえ、ゼルフィルドの日光浴情報が聞けて助かったわ」 「彼らには悪いけど、これを逃す手はないからね」 中身を確認した荷物を背負い、三節棍を腰に挟み込むに頷きながらも手にした刀を荷物と共に背中に背負った。まったくの余談だが、二人の荷物も武器の近くに置いてあり、の鎮痛剤も容易に手に入れる事が出来た。軍人としてはあまりにも迂闊過ぎると二人に突っ込まれても致し方ないだろう。 「・・・ずっとここにいて、腹黒悪魔と顔を合わせるなんて事態は嫌だし」 「確かに、それだけは避けたいわ」 ボソッと呟いたの言葉にの顔も僅かに引き攣った。 そう、このままここにいるとなると、顧問召喚師の肩書きを持った今回の黒幕と顔を合わせる確立が滅茶苦茶高くなるのだ。そうならない為にも、さっさとこの駐屯地を脱走するべきで。 「騙していたと言われても仕方がないけれど」 「彼らの事は嫌いではないけれど」 呟く声のトーンが少し、落ちる。 「このまま、捕まったままでいるわけにはいかないから」 「人質役であの人達に会うわけにはいかないから」 二人の視線が交わされ、小さく頷き合った。 「・・・・・脱走させてもらう」 小さな呟きが零れ落ちたのと同時に、二人はテントから飛び出す。 「な!?お、お前達・・・っ!?」 「すみません」 「申し訳ありません」 どすっ、がこっ。 おそらくは見張り役であろう、兵士の腹部への足が回し蹴りを決め、思わず蹲ったところへの踵落しが後頭部へと決まる。もちろん、兵士の意識はブラックアウト。 「とにかく、森へ」 「ええ」 ほんの小競り合いだったにも関わらず、この騒ぎに気付いた兵士達が続々と集まってくる。流石は精鋭部隊の軍人、気配に聡い。 あまり体力を消耗したくない為、二人は見事な健脚(と美脚)を披露しながらその場を遁走した。 「うわぁ、大量に追いかけてくるわよぉ?」 「・・・・・皆、暇なの?」 予想以上の捕獲軍の数に、背中に一筋の汗を流しながらとは全速力で駐屯地を駆け抜ける。鉢合わせる方々には足技をプレゼントしながら。 「BGMを流すとすれば『天国と地獄』?」←100M走などで流れる御馴染みのあの曲です。 「姉様、体育祭じゃないんだから」 そんな、ほのぼのした行事どころではない。いや、学生の方々にとっては一大行事ではあるが、今現在の状況は下手をすれば命がけの鬼ごっこであって。 「だいたい、そんな呑気な台詞を言っている場合じゃないでしょう?」 「緊張を解そうとしただけ・・・あう、ごめんなさい」 ちらりと流された視線の中に怒りの色を見つけたは素直に謝る。 「・・・ッ」 「!」 森の中に入り、樹の枝に飛び乗った途端、二人の背後から聞き覚えのある声が掛かった。 「ルヴァイドさん・・・」 「イオスさん」 驚愕の色を顔に浮かべ、自分達を見つめている二人を樹の枝に乗った体勢で振り返ったとは哀しそうに微笑む。 「、君は・・・」 「すみません、イオスさん」 決して、騙すつもりはなかった。けれども、意図して動ける事を言わなかったことからして、すでにそれは騙していた事になる。 何も言うことなく、ただ謝罪するにイオスのルビーの瞳が哀しげに揺らいだ。 側にいて欲しかった。その暖かな微笑みと抱擁を手放したくなかった。 だが今。欲しいと思った少女は自分の手から擦り抜けようとしている。 「」 「ルヴァイドさん達のことは決して、嫌いではありません」 澄んだ栗色の瞳が一瞬、哀しみに染まる。だが、次の瞬間には強い意思の光が宿った。 その光を認めたルヴァイドの息が僅かに飲まれる。 「・・・けれども、私達には待っている人がいます」 「私達の召喚主にも頼まれています」 二人の瞳に宿る強い、強い意思。相対する人を圧倒するほどの覇気。それは、初めて対峙した夜を思い起こさせる。 「・・・・・お前達の実力を忘れていた私達の落ち度だ」 感情の篭らない声でありながら、何故か温かみが感じられる響き。 「ルヴァイドさん・・・?」 「俺達と互角に武器を合わせる事が出来る人間だ。用心に用心を重ねるべきだったのだ。だが、お前達の容姿がその警戒心を忘れてしまったようだな」 「ルヴァイド様・・・」 苦笑さえ感じられる雰囲気にイオスの瞳が見開かれた。 「貴方達の事は嫌いではありません。いえ、どうでもいい他人よりも、貴方達の方が好きです」 ふいに告げられた言葉に今度はルヴァイドの瞳が見開かれる。 「これから先、貴方達とは何度も剣を向け合うでしょう」 「それでも、私達は貴方達が好きです」 暖かな微笑みと暖かな言葉が樹上の少女達の唇から零れ落ちる。 「たとえ、命の遣り取りをし合おうとも」 「これだけは信じてください」 「私達は、貴方達が、好きです」 再び呟いた、暖かな言葉を最後に二人の姿は森の中へと消え去った。 「・・・・・ルヴァイド様」 「ああ。最後の最後まで・・・罪深い俺達を気遣うとはな」 穏やかな表情で二人が消えた森を見つめた後、ルブァイドは振り返るとその場にいた部下達へ指示を出す。 「皆、持ち場へ帰れ。人質に逃げられはしたが、どの道、するべき事に変わりはない。偵察兵が帰ってくるまで己のするべきことをしておくのだ」 「はっ」 ルヴァイドの声が響いたと同時にその場に集まっていた兵士達も三々五々、散らばって行く。 それを見ていたルヴァイドはもう一度、森を振り返った。 「・・・・・本当に、最後まで暖かな娘達だった・・・・・」 森の中へ消えた二人は太陽の位置から方角を割り出し、取り合えず南へと向かっていた。 ・・・地面には下りず、枝から枝へと飛び移るという、非常識な移動方法で。 「まずは、南へ。運が良ければ街道に、そうでなくてもファナンに着く可能性が高い」 「もし、ファナンに着いても今度はゼラムへ向かえばいいものね」 枝から枝へと飛び移っていながらも、会話は極普通に行われているという非常識。誰かが見ればまず確実に『忍者か!?』と突っ込まれる事間違いなしだ。 だが、ここにいるのはお互いの相方だけで突っ込む人間はおらず、二人は身軽に移動し続け・・・目的の街道へ辿り着いた。 「街道、ね。どっちへ行くべきかしら?」 「太陽の位置から判断して南はあっちかな」 「それでは、反対方向へ行きましょう」 「お嬢のカンなら当たるかもね」 そうして、改めて荷物を背負い直した二人はの野生並みのカンが告げるまま、ゼラムの街を求めて歩き出した。 「はああぁぁ〜〜〜」 ゼラムの高級住宅地にある一軒の大きな屋敷。その一つの部屋で、紫紺の髪の青年が地に沈みそうな深いため息をついていた。 二日前の夜中、ボロボロになりながらゼラムに戻った一同は召喚師の兄弟弟子達の先輩を頼り、その屋敷に保護された。屋敷の者達の好意で傷ついた体と心をゆっくりと休ませ、そして落ち着いた今、気になるのは自分達を逃がす為に敵の足止めを買って出たレルムの木こりのお爺さんと『名も無き世界』から召喚されたという二人の少女。 確かに、あの三人の実力は他の誰よりも傑出していた。だからこそ、歯痒い。何の力も無い自分が。外の世界どころか、自分の実力さえも理解していなかった事が酷く情けない。 そんな、落ち込みモード真っ最中な青年の部屋の戸を躊躇いがちに叩く音が響いた。 「・・・お兄ちゃん、いる・・・?」 「トリス」 双子の妹の声に顔を上げてみれば、扉の所に俯き加減に立っている姿があって。双子という繋がりと今まで育った場所には味方と呼べる者がほとんどいなかったという状況上、この妹の姿の理由も即座に理解できた。 「お兄ちゃんも・・・気になる、よね?」 「それもあるし、自分の情けなさにも落ち込んでいる」 何時もの明るさとは打って変わった小さな声に、同様に沈んだ声で返す。 「そっか。あたしもね、何ていうのか・・・本当に、何も出来ない子供なんだなぁって思っちゃって」 「自分がさ、いかに世間知らずだったかって思い知らされたよな」 ため息をつくタイミングが二人同時なのはさすが双子と言うべきか。 「召喚師だからって思い上がっていたのかもしれない」 「うん。何とかしてみせるって思っていても、結局は誰かに助けられている」 「情けないよな、ホント」 双子の片割れが側にいても落ち込みが治るわけでもなく、それどころか相乗効果でますます落ち込む勢いが増すだけで。 だが、そんな落ち込み双子に声を掛けたのは良くも悪くも威勢のいい召喚師の先輩だった。 「こぉら、二人とも。せっかくゆっくり出来る場所を提供しているっていうのに、そんなに落ち込んでいたら療養の意味がないでしょうが」 「ミモザ先輩・・・」 「で、でも」 「ミモザさんの言う通りよ、二人とも」 「ケイナ・・・」 避難場所としてこの屋敷を提供した派閥の先輩の後ろから穏やかな声が響き、奇妙な縁によって行動を共にしている弓使いの女性が姿を現す。 「二人とも、との事が気になっているのよね?」 「うん。二人が自分から引き受けた事とはいえ、置き去りにしたってことがすごく気になって・・・」 「自分にもっと力があったら、そんな事をさせることもなかったのにって思ってしまって・・・」 「その気持ちはよく分かるわ。私も、すごく悔しいもの。でもね、あの二人が告げた言葉を考えると何時までも落ち込んでいられないわよ」 ケイナの台詞に双子の顔がハテナマークで埋められる。 「とが告げた言葉・・・?」 「そうよ。あの二人が私達を送り出す時に言った言葉を覚えている?」 別れ際に叫んだ言葉だと二人にも分かり、揃ってケイナに頷いた。 「ああ。は『いきなさい』って言ったけど」 「さんも『いきなさい』って言ったよ」 「その『いきなさい』って言葉、どういう意味に取った?」 「どうって・・・」 再びの問いかけにまだ二人の顔にはハテナマークが浮かんだままである。 「・・・とね、私達に対して言葉遣いはずっと丁寧だったわよね。闘いになろうとも、その言葉遣いが崩れる事はなかったわ」 「うん、そうだね」 「ちょっと、寂しいなって思ったもん」 自分達とどこか境界線を引いているような感じがしていたので、そのことはよく覚えている。 「そんな二人が私達を送り出した時の言葉が『行って下さい』じゃなくて、『いきなさい』よ。たぶんだけど、二人はこの言葉に『行きなさい』の意味と『生きなさい』の意味を込めたんじゃないかしら」 ケイナの謎解きに双子達ははっとした表情になった。 「『行きなさい』と・・・」 「『生きなさい』の意味」 「私達には私達のするべきことがある。あの場から『行って』、『生きて』するべきことをする為に。ねぇ、とは何を望んでいると思う?」 目から鱗が落ちたような気分で双子達は顔を見合わせた。 「確かに、ここで落ち込んでいる事を望むわけがないよな」 「そうよね。あたし達はアメルを守りたいって思って、そうしたのだもの。アメルを守る為に動いたあたし達が部屋に篭っていちゃ、おかしいわよね」 「そうだよな、トリス。俺達はアメルを守りたかった。そんな俺達の気持ちをもも汲んでくれたんだ」 「お兄ちゃん、街道へ行こう!」 いきなりの妹の提案であったにもかかわらず、即座に兄はその意図を理解する。立ち上がって側に置いてあった武器に手を伸ばしながら、屋敷の中にいるだろう人物達を脳裏に浮かべた。 「フォルテやネスティも誘ってみようか」 「ロッカとかリューグも行くかな?」 そんなことを言いながら部屋を出て行く双子達の後姿を見送った屋敷の主人の一人である女性がくすくすと笑みを零す。 「ホーント、あの子達ってば素直で可愛いわねぇ。少しアドバイスをあげただけで、ああやって立ち直ってくれるのだもの」 ・・・・・言葉の裏に『単純だ』と聞こえたのは気のせいだろうか・・・・・。 「ケイナもありがとうね。お陰であの子達も先へ進む事ができる」 「大した事はしていないわ。ミモザさんの言う通り、私はちょっとした切っ掛けをあげただけだもの」 ミモザと同じく、くすくすと笑みを零した弓使いの女性はさて、とでも言うように身を翻した。 「私も街道へ行きますね」 少しでも、自分の腕を磨くためには基本も大事だけど、実践も大いに身になるもの。双子達のいきなりの行動を理解していた彼女の言葉に召喚師の女性もにこやかに頷いた。 「可愛い後輩達をよろしく頼むわね」 そして。 「・・・・・・・・・・?」 「、さん?」 街道まで出てきた一同は屍累々とばかりに倒れている盗賊一味(その数、およそ20余り)とその側で呑気に寛いでいるとの姿を目にしたのだった。
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